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タクシーに乗ってワンメーターで降りたら嫌な顔をされるってどうなの?

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今回は僕の友人が遭遇したあるタクシーでの出来事から、「タクシーワンメーター下車問題」について書いていきたい。まずは、事の発端である経緯から書いていこう。

ちなみに、今回は「駅からタクシーに乗るケース」について話がしたい。また、タクシーには、駅や人気スポット近辺に停車して乗客を待っている「停車中タクシー」と、乗客を乗せず道路を走っている「走行中タクシー」の2つのケースがあるが、今回の焦点は前者の「停車中タクシー」である。

友人が出くわしたあるタクシーでの出来事

先日僕の大学の友人から聞いた話だ。

彼はその日、仕事中に持病の偏頭痛がおきて体調を崩したそうだ。退社後に最寄り駅までなんとか電車で帰ったものの、駅から徒歩10分かかる家まではどうしても歩けないという状態になってしまった。そこで、駅のロータリーに停車しているタクシーに乗って家まで帰ろうとした。徒歩なら10分かかる距離も、タクシーなら1分程度で帰ることができる。そもそも歩く余裕がない。そこで彼は、外見は正常な状態を保ちながら、タクシーの運転手に「◯◯までお願いします」と伝えてタクシーに乗った。だが、そのタクシーの運転手の返答に彼は驚いた。

「えっ、すぐそこですよ?歩けばいいんじゃないですか?」

友人は「はっ?!」と思いながらも、「すみませんが、体調が悪いので近いですけどお願いします」と伝えた。しかし、運転手は明らかに嫌そうな表情をして、渋々運転を開始した。友人は嫌な思いをしながらも、体調の方が優先なのでとにかく家まで帰ろうと、もやもやを抱えたままタクシーに乗っていた。

だが、タクシー運転手はさらに衝撃的な発言をした。本当は家であるマンションの入り口近くまで行ってほしかったのだが、運転手が途中で「もうここで降りてもらっていいですか?」と言って途中で勝手車を止めたのだ。友人は腹わたが煮えくり返りそうになったが、偏頭痛でそれどころではなく、支払いだけ済ませてさっさと下車し、結局その場所から家まで歩いて帰ったらしい。

これが「タクシーワンメーター下車問題」の経緯である。

ワンメーター(1メーター)で下車することの是非

友人からこの出来事を聞いた僕は、タクシー運転手のこの対応はおかしいと思った。友人が何の理由もなく、ただ歩くのが面倒だからという理由で駅に停車しているタクシーに乗ったならまだしも、どうしてもタクシーに頼らざるをえない状況にいる人に対し、民間とはいえ公共財としての立場が強いタクシーという交通機関がそのような対応をすることはいかがなものだろうか。そして友人は体調不良の旨も伝えているのだ。ましてや、乗客はタダで乗っているわけではなく、ちゃんと代金を支払ってサービスを利用している。それをサービス供給側の都合で途中放棄することはどう考えてもおかしい。ホテルで宿泊客が安い部屋にしか泊まらないからといって、チェックアウトよりも早く出ていけと言っているようなものだ。
 

ただ一方で、タクシー運転手を完全に批判することもできない。そもそもタクシーの料金構造とタクシー会社の給与制度が、この問題の根本にあるからだ。

タクシー料金は初乗り運賃が設定されており、移動距離や時間によって追加料金が発生していく仕組みだ。だからこそ、タクシーが稼ごうと思えば、できるだけ遠方の客を乗せることが重要となってくる。つまり、ワンメーターという最低金額で下車しようとする客は、売上面だけで言えば一番乗せたくない客となってしまうのだ。それは客のおかれている状況に関係なく、固定された料金体系なのである。駅のロータリーはタクシーが多数連なり、自分の順番を待ち構えている。大きな駅になれば、数時間かけて順番を待つことも日常茶飯事だろう。それだけ待ってようやく乗車した客がワンメーターという最低金額で降車したいと言われれば、たしかに辛く、嫌になる気持ちはわからなくはない。タクシー運転手の彼にも生活があり、そのためには稼がなければいけないのだ。会社に個人タクシーになれば尚更である。

また、タクシー会社の給与体系もこのワンメーター下車問題に拍車をかけている。調べてみたところ、タクシー運転手の給与は会社にもよるが、ノルマ制である場合が多いらしい。会社によってはそのノルマを移動距離としている場合もあるが、ほとんどが売上金額のノルマを敷いている。そのため、月に稼がなければいけない金額が決まっており、そのためにいかに単価の高い客を多く乗せられるかがキーとなってくる。これは歩合制の営業マンの仕事のやり方と変わらない。だからこそ、数時間かけても遠方へ行く確率が高い大きな駅をターゲティングし、単価の高い客を乗せることにかけているのだ。

タクシーの料金構造と会社の給与体系によって、タクシー運転手はいかに単価の高い客を多く乗せられるかの戦いが求められる。だから、ワンメーターの近距離でも利用したい乗客のニーズと運転手の意向はベクトルが合わず、その結果お互いが嫌な気分になってしまうことになりかねないのだ。

このようなことを考えると、たったワンメーターで駅に停車しているタクシーを利用するのはかなり気が引ける。順番をずっと待ってようやく乗せた客が超近距離客だったらそれは嫌に思うだろうし、こちらとしても運転手に対しても申し訳ない気持ちになる。

ちなみに僕は、駅に停車しているタクシーはよっぽどのことがなければ利用しない。駅からタクシーに乗りたい時でも、タクシー会社に電話して駅の別の場所に迎えにきてもらうか、駅から少し離れて走行中のタクシーを止める。目の前にタクシーが止まっているのに面倒ではあるけれど、お互いが嫌な気分になるくらいなら、その手間をかけた方が自分としても気が楽なのだ。

乗客と運転手、Win-Winの関係を築くには

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駅から近距離でタクシーを利用する際に生じるこの問題に対し、良い解決策は何かないものだろうか。いろいろ考えてはいるけれど、一番のネックになってくるのは、"スペース(土地)"の問題じゃないかと思う。

距離によって乗り場を分ける

たとえば、駅のタクシー乗り場を「近距離用」と「遠距離用」に分けるということを考えてみた。ワンメーター程度でいけるほどの近距離でタクシーを利用したい人は「近距離用」のタクシー乗り場に並び、それ以外の人は「遠距離用」の乗り場に並ぶ。そして、タクシーは自分が乗せたい客の方の列に並ぶというもの。そうすれば、タクシー運転手としてははじめからその乗客が高単価の乗客なのか、そうでないのかがわかる。おそらく遠距離の乗客を乗せたいタクシーの方が多いだろうから、遠距離用の順番待ちは今と同様に混雑するだろう。だが、逆に近距離用の乗り場はそんなにタクシーは混まないにちがいない。であるならば、近距離であったとしても、乗客を下ろして速やかに元の乗り場に戻り、また乗せる、というサイクルを遠距離用よりも多く繰り返すことができるはずだ。タクシーの売上は「客単価×乗車回数」で決まる。遠距離の場合は、この客単価をいかに高めるかという勝負だが、近距離なら客単価は低いとしても「乗車回数」を増やし、結果として売上拡大ができる可能性がある。

一方、タクシーを利用する側としても、乗り場が分かれていれば、タクシーもそれを承知の上で客を乗せているのだから、何の遠慮もなく、近距離でも利用することができる。両者にとってWin-Winな関係だ。

だが、実際のところ、問題になってくるのは"スペース"だ。駅のタクシー乗り場は既にパンパンで「近距離用」の乗り場を増設することは現実的とは言えない。また、今の乗り場を分割する余裕もない。良さそうなアイデアだと思ったが、現実的ではないだろう。

スマホの配車アプリを普及させる

次に考えたのは、「スマホのタクシー配車アプリを使う」ことだ。最近はさまざまな配車アプリが登場している。たとえば、日本交通がリリースした『全国タクシー』がある。全国47都道府県で利用が可能で、300社以上のタクシー会社が登録しており、近くのタクシーを呼び出すことができる。また、予約もできるので、あらかじめタクシーに迎車依頼をしておくことも可能だ。

このようなアプリをもっと多くの人が活用するようになれば、駅で待っているタクシーに乗らなくても、気軽にタクシーを呼び出し、近距離でも気を遣うことなく乗車することができる。実際にすでにリリースされ、多くの人が利用しているサービスなので、実現性も高い。

ただ、これにも問題となるのが、"スペース"だ。今回のケースは駅からの近距離乗車をいかに解決するかである。タクシーをアプリで呼び出そうにも、駅前のロータリーは混雑しているので来てもらうことが困難だ。そうなると、自分が駅から少し離れた場所まで移動する必要が出てくる。今回のケースのように体調不良の場合や、荷物が多くて歩いて移動できない場合など、そういった移動が困難かつ緊急性が高いケースに利用することが出来ない。

さらに、現状のアプリにもまだまだ利用をためらう部分がある。たとえば、迎車の場合は迎車料金が別途発生する。料金は利用する会社にもよるが、相場は310〜410円のようだ。近距離で移動するだけのために、初乗り運賃とは別に迎車料金を別途支払うのはためらわれる。そうなると普及は難しいだろう。また、高齢者など普段アプリを利用しない層でも簡単に利用できるように、インターフェースを改善していくことも必要だろう。

まとめ

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今年1月30日より、東京都の23区内と一部地域にて、タクシーの初乗り料金が従来の730円から410円へ大幅に値下げが実施された。これは、国内のタクシー業界が誕生して以来、初の値下げとなるらしい。

今回の改革を指揮した東京ハイヤー・タクシー協会の川鍋会長(日本交通会長)は、値下げの理由として、「高齢化社会に対応し、ちょい乗り需要を喚起する」ことと「訪日外国人の増加に対応し、外国人のタクシー需要を伸ばす」ことの2つをあげている。(参考記事:23区のタクシー初乗りが410円に

今回実施された値下げについて、遠距離の場合は従来よりも価格が上がることから、「実際の狙いは値上げだ」という声もあるようだが、年々輸送回数が減少しているタクシー業界において、やはり「ちょい乗り」つまり、近距離移動の需要を重要視していることは間違いない。

だが、経営陣や上層部の意図がどこまで現場のタクシードライバーに伝わっているか。タクシー会社が本当に近距離需要を取り込みたいのであれば、近距離・遠距離問わず、同一の丁寧なサービスが乗客に行き届く仕組みづくりと接客対応を、現場レベルで浸透させていくことが必要となってくるだろう。そして、運転手側にも近距離でも自分にもメリットがあるような組織や制度の整備が求められるだろう。経営陣が「お客様に良いサービスを提供しよう」と口でどれだけ言ったとしても、人事制度を含めたそのような仕組みが変わらなければ、運転手のモチベーションを高めることは難しい。

最後に、今回はあるタクシー運転手の対応を例に挙げたが、超近距離でも笑顔でとても親切に対応してくれる素晴らしい運転手も多数いらっしゃることを記載しておく。タクシー運転手は乗客を選べないが、乗客もタクシーに乗り込むまで運転手を選ぶことはできない。サービスの受け手と担い手という立場はあるものの、お互いが気遣いと礼儀をもって、良いドライブを過ごしたい。

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