Magic Pie

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「実習生」という名札を新人につけさせるのは店側のエゴ

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なぜ僕がこんなことを言い出したのか、まずはことの発端である「ペアグラス事件」について話したい。

某大手雑貨店で起こった「ペアグラス事件」

先日のことである。友人の誕生日プレゼントを買うために某大手雑貨店へ行った。店内で2時間ほど悩んだ末、婚約中の友人のためにペアグラスを買うことにした。
「ロックグラスが欲しい。でも彼女はお酒が飲めない。でもペアグラスがいい」という完全に矛盾した友人の要求を満たすものを見つけるのは至難の技である。そもそもプレゼントをもらう側としての要望としてかなり贅沢である。

 

そんな中でようやくたどり着いたのが、僕も大好きなブランド「うすはり」のオールドグラス。

うすはりグラス うすはりオールドL(桐箱入り2個セット)

めちゃくちゃ薄いガラスなので洗う時には注意が必要だが、その触りごごちと口当たりの良さは格別である。オールドグラスなら、ロックグラスとしての利用はもちろんのこと、ウィスキーを飲まないその彼女でもソフトドリンクを入れて美味しく飲んでくれることだろう。グラスは木箱に入っており、それだけでも高級感が増している(気がする)。うんうん、我ながら良いものを見つけたもんだ。

 

完全に自画自賛の境地でレジへと向かい、「プレゼント用で」と依頼した。レジの店員さんは20代前半くらいの女性であった。

「ではお品物の確認をまずお願いいたします」と言い、木箱のフタを開け、中からグラスを取り出し、グラスを包んでいるミラーマット(緩衝材)をめくって中のグラスを見せてくれた。

 

店員さん「お品物はこちらでよろしいですか?傷などはついておりませんでしょうか?」
僕「はい、問題ないです。」
店員さん「ありがとうございます。」

 

ここまでは特になんの問題もなかった。一連の確認作業が終わり、店員さんが再びミラーマットでグラスを包もうとしたその時である。問題が発生した。

それまで丁寧に対応してくれていた店員さんが、いきなりミラーマットをぐいぐいとグラスに巻き始めた。あまりにも雑である。

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参照:amazon.co.jp

 「え」と呆然としながらも、ひとまず様子を見ていると、店員さんはその梱包した(気になっている)グラスを再び木箱の中へ入れ始めた。もちろんそんな梱包の仕方だから小さな木箱には入らない。すると次の瞬間。店員は入らない部分を上から思い切りグイッと押し始めた。完全に無理押しである。

 

念のため言うが、僕が買ったのは「うすはり」である。”薄”ハリなのである。飲むときの口当たりを最高にするために職人が熟練の技を持って、"極薄"に作り上げた”うす”はりなのである。

 

僕の心の中で「うすはり」と言うワードがこだまする中、そんなことはつゆ知らず、店員はぐいぐいとグラスを押し込み、ついに入れきってしまった。プレゼント用として買っている僕はガクガクものである。だからと言って、クレームをガヤガヤ言うのも好きではない超穏健派の僕は、とにかく心の叫びを押し殺し、その様子を淡々と見守った。

とにかく割れてはいないだろう。ちょっと包み方が下手くそなだけで問題はない。(かなりだが)逆に、もう一度梱包してもらう方がこわい。

 

そんなこんなで精算に早く移りたいと思っていた僕に対し、店員は衝撃的な言葉を放った。

 

店員「もう一つのグラスもご確認お願いします」

 

「えっ」と言う言葉も出る前に、店員は食い気味に、まだ綺麗に梱包され、箱に収まっていた方のグラスを取り出し、そそくさと包みを解いてしまった。

店員「グラスは問題ありませんか?傷はございませんか?」
僕「・・・はい」

問題はない。今は。むしろ君が開けなければ傷はなかっただろう。過去形では傷はなかったが、この作業により傷がつく可能性の方がよっぽどたけーじゃねーか。と言う思いは心に秘めて、平和にこの場を終わらそうと、渾身の力で「はい」と答えた。

 

しかし、である。僕のそんな気遣いは店員には伝わらず、再び悪夢のようなミラーマット巻きが炸裂し、木箱への押し込みが行われた。・・・とにかく穏便にこの場を乗り切ろう。木箱の蓋を閉めればそれで終わる。プレゼント用の包みは別の人がしてくれることを切に願う。

そう考えていたその瞬間である。木箱の蓋を閉めようとした店員は、自分がしでかしたミラーマットのぐちゃ巻きによって蓋が閉まらないことに気づいた。そして、なんということでしょう。匠は、蓋をぐいぐいと上から押し始めたではありませんか。

 

そこでさすがの僕も言わざるを得なかった。

「プレゼント品なので、そういう扱い方やめてください」

ブチギレ寸前ではあったのだが、心の中に抑え込んでひたすら冷静に伝えた。
店員は「えっ?!」という驚きの顔をし、なぜか逆に相手が呆然とし始めた。僕と店員の間に全く無意味な沈黙が流れる。それを見かねた隣の店員が、「包み直しますね」と言って、その店員から作業を代わり、再び梱包をやり直した。もちろん包んでいたミラーマットは一連の作業で穴まで空いてしまっている始末である。

 

梱包し直す作業は別の店員に託し、僕は怒りを抑えたまま、元の店員と精算作業に移った。

 

僕「ここから直接郵送でお願いできますか?」
店員「はい、可能です」
僕「では郵送でお願いします」
店員「わかりました。それでは商品が出来上がりましたらお声掛けしますので、店内でお待ちください」
僕「え、待つんですか?・・・わかりました」

 

どう考えてもおかしい。普通郵送なら、レジで送付票を書いてしまえば後は店側でしてくれるはずだろ。

 

おかしいと思いながら待つこと15分・・・。レジの裏で、店員にも存在を忘れ去られていた僕の買った商品が、別の店員が気づいたことによってようやく包装が始まる。
そしてさらに10分後。「お待たせしましたー」と包装担当の店員に呼ばれ、カウンターへ行けば、案の定、持ち帰り袋に入れて手渡された。
手渡そうとした店員に罪はない。だからここでも押しとどめて何も言わず、「郵送でお願いしたのですが」とのみ伝え、郵送対応に切り替えてもらった。

 

こうしてイライラとモヤモヤが残るままに、僕は店を後にしたとさ。

新人の名札は免罪符ではない

これがペアグラス事件の経緯である。

この店員の対応に実際かなり腹が立ったし、店側に対しクレームを言いたい気持ちもある。だが、この対応に僕がキレなかったのは、クレームをガヤガヤ言うことが嫌いと言うこともあるのだけれど、それ以上に「あるもの」を目にしてしまったことが理由だった。
プレゼントをぐいぐい押し込んだ店員の胸ポケット部分に、「実習生」という名札がきらめていたのだ。

 

この名札の効力にはすごいものがある。

「おそらくこの店員は新人として入ったばかりなのだろう。まだカウンター対応もままならない状態なんだろうな。(そもそもこの子に常識がないということは置いておいて)だから少しは大目に見てあげないといけないな」

と、店側が何も言わずとも客にそう思わせることができる、最強の免罪符であり、水戸黄門の紋所なのである。

 

だが、これは完全におかしい。

客側にとって、自分の前に立つ店員が実習生なのかベテランなのかは全く関係がない。店員の経験値に関わらず、我々は同じ金額を払って、同じサービスを受けている。商品を買う際のレジの店員だけでなく、レストランに行って食事を注文する際のホールスタッフもそうだし、ホテルのフロントスタッフも同じだ。
それにも関わらず、新人だということを前面にアピールするというのは客側にとって何の意味があるのだろうか。
「この子は新人なんです。だから多少のことは大目に見て上げてくださいね」という「実習生」の名札のメリットを享受するのは、その新人を雇っている店側だけなのだ。

 

もちろん僕は「俺は客だから、俺の満足するサービスを提供しろ。店側は客に尽くせ」と言いたいわけではない。客としてその店に対し、金銭でサービスを買っている以上、その対価として同じサービスのクオリティを求める権利がある。それに対し、店側としても責任を放棄することなく、顧客と向かい合ってほしいのだ。

 

ちなみに、美容室のように、新人美容師とカリスマ美容師で値段が違うというビジネスモデルならわかる。

美容室は新人には髪は決して切らせない。新人は来る日も来る日もひたすらシャンプーのみを担当する。そして、仕事が終わってからも、先輩の指導を受けながらカットの練習をして腕を上げていく。そしてようやく一人前と認められた時、初めて美容師として髪をカットさせてもらえるようになり、金額はミニマムからスタートする。カットの能力と経験値が完全に比例するわけではないが、経験値や人気度によって、金額が変わるサービスであれば、新人だということを前面に押し出したとしても、客と店はイーブンの関係である。

 

また、中には「車でも初心者は若葉マークをつけている。でもベテランと同様に車道を走っているじゃないか」というご意見があるかもしれない。

しかし、これは同じことだ。初心者マークは一般の運転者に対し、「新人なんで多少の下手な運転は許してやってくださいね」という免罪符として貼っているのではない。「新人なのでより注意して動向をチェックして運転してください」という他者への注意喚起なのだ。

免罪符ではないからこそ、初心者であっても同様の法律義務が課せられている。さらに、初心者は熟練運転者以上に所有点数が少なく、免許停止に対してリスクが高い状態に整備されているのである。

しかし、店の新人店員に対してはこれは通用しない。新人だから客は注意喚起して対応してくれというのは甚だおかしい状態となるからだ。

 

新人の名札を言い訳ツールとして利用するのは店側のエゴだし、客に逆に気を遣わせるだけである。言い訳の用意をするくらいなら、その新人を安心して客前に立たせられるように、徹底的に裏で指導すべきだ。先輩社員と顧客対応のロープレをする。商品に対する知識をつける。など出来ることは山ほどあるはずだ。

 

そうは言っても、どの職業でも実践によって学んでいくことが多いことは間違いない。そして新人は失敗するものだということも間違いない。そして、失敗から学んでいくということも。だから僕は決して新人を店頭に並ばせるなと言いたいわけではない。

ただ、店側は自分たちが出来る限りの教育環境を整え、自分たちの顧客へ一貫したクオリティでサービスを提供してもらいたい。名札を免罪符として掲げて「新人だから仕方ない」と思わせるのではなく、「新人でもこんなに素晴らしい対応をしてくれるのか」と思わせた方がよっぽどブランド力も高まる。

 

新人の名札は教育コストを下げ、クレーマーを阻止する最大の防御策である。しかし、これからの時代、その付け焼き刃の防御はいつまでも続かないだろう。これだけ一人一人がメディア化し、情報発信をしている世の中である。

店の評価は一般の口コミを伝って一気にバズるし、そんな表面的な防御は目が肥えて、さらに選択肢が広がった顧客へはもはや通用しない時代になっているのだ。

 

新人でもベテランと同質のクオリティで顧客満足度を高められる教育システムと、顧客への素敵なサービスを提供するという社員も含めた矜持と心構えを大切にしてもらいたいと感じた今日この頃。

そして我々客もサービスを利用させてもらう立場として、ふんぞり返るのではなく、ある程度の許容はしながら温かい目で新人店員の成長に協力する心も持っていかないといけない。これは自分への戒めとして。

では、今日はこれにて。